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天下分け目の関ヶ原の合戦を、東軍、西軍の七人の武将の視点で描いたアンソロジー。
関ヶ原の戦いについて覚えていることといえば「1600年、石田が負けて徳川が勝った」くらいなもので、出てくる武将出てくる武将「そういえばこんな名前を教科書で見た気がする」という有様。大河ドラマも戦国BASARAも馴染みがないので、戦国時代に対する引き出しはまったくありません。かろうじてSAMURAI DEEPER KYOが浮かぶくらいです。隕石が降って来て関ヶ原の戦いは終わります。※アニメ版
出てくる単語も耳馴染みのないものばかりでイメージが追いつかず、これはちょっと読み切るのは難しいかなとも思ったのですが、二篇目を読み始めたあたりから風向きが変わってきました。例えば小早川家ひとつとっても、西軍の武将から見れば戦いのさなか東軍に叛応した裏切り者として、東軍の武将から見れば戦いの布石として、そして小早川家の視点では調略に至るまでの葛藤が七人の武将それぞれの思惑を絡めて描かれます。その、異なる立場からひとつの歴史を見つめる面白さ。
以前辻村深月の『盲目的な恋と友情』を読んだ際にも同じことを書いたような気がするのですが、ひとつの出来事をそれぞれの人物の視点で紐解いていく構成が三度の飯より大好き、この本はそれを日本史でやっているわけです。さっき裏切った小早川が今度は味方に、ああ、実はそんな背景で東軍に寝返ることに!と、一つ読むよりも二つ、二つ読むよりも三つ、と読めば読むほど戦いの裏側が見えるようになりどんどん面白さが増していきます。
ひとつひとつは平面でしかない短編ですが、それが連なることで歴史の立体的な面白さが生まれます。これは間違いなく企画立案の勝利です。
ドラマ性に重きをおいたもの、合戦の臨場感に重きをおいたもの、作家ごとに毛色が違うのもまた立体的な面白さを作り出しています。
歴史は年表の上にあるのではなく、人間の思惑が絡み合って生まれる、当たり前のようで、今までいまいちピンと来ていなかったことです。
学生のときにこれがあれば、十数年後「1600年、石田が負けて徳川が勝った」「隕石が降って来て終わった」しか残らないなんてことにはならなかったと思います。戦国時代、おもしろい。歴史ものが苦手なひとにもおススメしたい一冊です。